2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、苦境に立たされている法人や個人事業主を支援する『新型コロナ税特法』(正式には、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律)が成立しました。
この法律には、多角的に事業者を支援するための、税金の猶予措置が盛り込まれています。
未だに続く新型コロナウイルスの影響によって業績が伸び悩んでいる企業に向けて、『新型コロナ税特法』について解説します。
【『新型コロナ税特法』、国税に関する措置は】
閣議決定から法案の成立まで、わずか11日間のスピード成立となった『新型コロナ税特法』。
新型コロナウイルスによる企業経営の悪化を緩和することを目的とし、コロナ禍のあおりを受けて、業績が不振に陥っている法人や個人事業主へ向けての制度になります。
まず、国税に関しては、以下の7つの措置が取り決められました。
●1年間の所得税・法人税など、ほぼすべての納税の猶予が受けられる
●欠損金のある法人が、2年前まで繰戻して法人税の還付が受けられる
●中小企業向けにテレワークなどの設備投資額を控除する
●文化芸術やスポーツイベントが中止になった時、主催者にチケットの払い戻しを求めなかった観客に対し、その金額分を寄附金として控除する
●新型コロナウイルス感染症の影響で、住宅ローン減税の期限内に入居できなかった人に対しても、減税を適用できるように要件を弾力化する
●消費税の課税事業者となることを選択し、承認を受けたあとでも中止可能にする
●新型コロナウイルス感染症の影響により貸し付けを受ける事業者について、契約書の印紙税を非課税とする
今回は、このなかから、支援効果の大きい『納税の猶予制度の特例』と『欠損金の繰戻しによる還付の特例』について、説明していきます。
◇ほぼすべての納税が延滞税なしで猶予に◇
まず、『納税の猶予制度の特例』について解説します。
この措置は、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年2月以降の任意の期間(1カ月以上)において、前年同期比20%以上減少した事業者を対象に、2020年2月1日から2021年2月1日までに納税の期限が到来するすべての税に関して、1年間の納付を猶予するものです。
法人税はもちろん、所得税や消費税など、ほぼすべての税目が対象となり、延滞税も発生しません。
また、担保を用意する必要もありません。
対象となる事業者は、納付期限が来るまでに申請を行うことで、猶予を受けることができます。
すでに新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国税の猶予を受けている事業者についても、さかのぼってこの特例を利用することができます。
つまり、延滞税がかかる別の猶予を、特例に切り替えることで、延滞税がかからないものとして猶予が受けられるようになるわけです。
特例の申請には収入や資金の状況がわかるような資料を提出する必要がありますが、むずかしい場合には口頭で説明することも可能です。
また、猶予の適用期間が終了したら定められた税金を納めなければいけませんが、従来の制度を利用することで、分割で納めることもできます。
納税することによって事業運営に支障が出る事業者は、制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
◇欠損金の繰戻し還付も枠が広がる◇
次に『欠損金の繰戻しによる還付の特例』について解説します。
従来は、資本金の額が1億円以下の法人を対象としていましたが、今回の特例で、資本金が1億円以上10億円以下の法人も対象になることが決まりました。
適用されるのは、2020年2月1日から2022年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金についてのみで、請求すれば、その事業年度から1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して、法人税の還付を受け取ることができます。
資本金が1億円を超えていて特例を受けることのできなかった法人にとっては、救済措置となるでしょう。
ただし、資本金が10億円を超える大規模法人の100%子会社や、グループ内の複数の大規模法人に発行済株式をすべて保有されている法人は対象外となり、制度を利用することができないので注意が必要です。
請求については、欠損金額の生じた事業年度の確定申告書の申告期限までに、還付請求書を提出する必要があります。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で手続きをするのが難しい場合には、個別に延長が認められています。
ほかにも、さまざまな救済措置があり、状況に応じて申請することができます。
新型コロナウイルス感染症の終息が見えないなか、どのように事業を継続させていくか、しっかり検討することが、事業者の急務といえます。
『新型コロナ税特法』を活用しながら、経営のかじ取りをしていきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。