定期健康診断は延期もOK? 新型コロナに関する安全衛生面での対応

新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、企業側にも感染拡大防止に向けた措置が求められています。
このような状況下で業務を続けていくうえでは、労働安全衛生法に基づいて適切な対応をとらなくてはなりません。
もし、従業員が新型コロナウイルスに感染してしまったら、事業者としてはどのような対応をとればよいのでしょうか。
また、健康診断や安全委員会などは中止したほうがよいのでしょうか。
こうした企業の安全衛生について、労働安全衛生法と照らし合わせながら解説します。

【『感染症法』でも感染者は就業禁止】

日本には感染症の予防や、感染症患者に対する適切な措置を定めた、『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』、通称『感染症法』と呼ばれる法律があります。

この『感染症法』では、感染力や感染者の症状などから、以下のように感染症を分類しており、それぞれに適した対応が求められます。

●一類感染症:危険度の高いエボラ出血熱やクリミア・コンゴ出血熱など
●二類感染症:その次に危険度の高いジフテリアや結核など
●三類感染症:コレラや細菌性赤痢など
●四類感染症:一類~三類感染症以外のもので、人から人への感染はほとんどないが、動物や飲食物を介して人に感染するデング熱や狂犬病、マラリアなど
●五類感染症:国民や医療関係者への情報提供が必要となるアメーバ赤痢やウイルス性肝炎など

このほか、『新型インフルエンザ等感染症』『指定感染症』『新感染症』があります。

今回の新型コロナウイルス感染症に関しては、2月1日付けで『指定感染症』に定められました。

『指定感染症』について、厚生労働省では『一類から三類感染症と同等の措置を講じなければ、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれのある感染症』としています。
つまり、一類から三類感染症に準じた対応が必要になってくるため、もし、企業内に新型コロナウイルスに感染した従業員が出た場合には、感染症法に基づいて、その従業員に対し、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができるようになります。

事業者においても、対象の従業員を就業させることはできなくなるとともに、適切な対応に迫られます。
従業員に感染者が確認された場合には、管轄の保健所に報告したうえで、指示を仰ぎましょう。
また、マスクや手洗い、密閉・密集・密接の“三密”を避けるなどの感染予防策を改めて徹底していく必要があります。

ちなみに、従業員が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、それが通勤や業務に起因しているのであれば、労災保険給付の対象になります。
自社内で感染者が出た場合、労災に関して管轄の労働基準監督署とも相談し、適切な対応を行いましょう。

【雇入時や定期的な健康診断は延期が可能】

労働安全衛生法では、事業者は従業員に対し、雇用の前後の健康診断や1年以内ごとの定期健康診断を行うことを義務づけています。

しかし、2月25日に決定された『新型コロナウイルス感染症対策の基本方針』では、閉鎖空間においては、咳やくしゃみなどがなくても感染するリスクが高いことから、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2020年の5月末まで、健康診断を延期することが認められています。

ただしこれは、労働安全衛生規則に基づく、雇入時や定期的な健康診断などに限ります。
労働安全衛生法第66条第2、3項に基づく特殊健康診断などについては、従来どおり、法令に基づく頻度で行う必要があるので注意してください。

今回の健康診断の延期は、現状では5月末までの取り扱いとなっており、それ以降に関しては、厚生労働省のホームページなどで状況を確認する必要があります。

【安全委員会は電話会議や延期を推奨】

また、対面による会議や研修などは事業者の判断で中止や延期していることと思いますが、労働安全衛生法第17条に基づく安全委員会の開催などについても、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止する意味で、柔軟な対応が認められています。
具体的には、延期、もしくはテレビ電話などによる会議方式などが推奨されています。
これについても健康診断と同様、現状では5月末までの取り扱いとなっています。

また、テレビ電話などを利用して開催する場合には、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた対応策などを積極的に話し合うように要請されています。

労働安全衛生法の観点からも、企業は『新型コロナウイルス感染症の拡大防止』を念頭に置いて行動することが求められています。
健康診断や安全委員会などのほかにも、実施を要するものに関しては、随時、どのように動くべきなのか、十分に確認して対応していく必要があります。