労働契約における基本的な禁止事項を確認する

労働契約上、使用者が労働者を雇用する際には、会社と労働者の間で『労働契約』を結び、契約書を交わします。
このとき、使用者である会社側には、労働者に不当な待遇を強いることのないよう、禁止事項が定められています。
もし、不正な契約を結んでしまったら、後にトラブルに発展してしまうこともあります。
そこで今回は、うっかり禁止事項に触れる条件を契約書に盛り込むことがないよう、禁止事項とその目的について確認していきます。

よく知られている禁止事項を紹介

労働契約における禁止事項は、主に4つが定められています。
それぞれについて順番に見ていきましょう。

賠償予定の禁止

労働基準法第16条の『賠償予定の禁止』は、労働契約の不履行による違約金や損害賠償金の請求額を前もって定めることを禁じるものです。
具体的には、従業員に対して、退職した場合に違約金を支払わせる約束をしたり、業務上のミスで会社に損害を与えた場合の損害賠償金の額を決めておいたりすることが、『賠償予定の禁止』に該当します。

しかし、この禁止事項は、違約金や賠償金の額をあらかじめ労働契約に盛り込んではいけないというものであり、実際に会社へ損害を与えた従業員に賠償請求を行うことは法律違反には当たりません。

また、研修期間や資格取得期間中に従業員が辞めてしまった場合に費用の返還を求める約束をしておくことも、賠償予定の禁止に当たらない可能性があります。

前借金相殺の禁止

労働基準法第17条の『前借金相殺の禁止』は、後の賃金で返済することを条件に従業員へ賃金を前貸しして、前貸し分を勝手に毎月の給与から差し引くことを禁じたものです。
また、前貸しを条件に、労働を強制したり、退職を妨げたりすることも禁止されており、そのような条件を労働契約に盛り込んでもいけません。

労働基準法第24条では賃金の支払について、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないと定めていることも、給与から借金を差し引くことを禁止する根拠になります。

ただし、前貸しそのものは禁止されておらず、労働者が使用者に拘束されないことが明白の場合に限り、金銭を融通することは問題ないとされています。

強制的な貯金や組合活動の禁止も法律違反

強制貯金の禁止

労働基準法第18条の『強制貯金の禁止』は、労働契約を結ぶ際に、従業員に貯蓄を強制させたり、貯蓄金を会社が管理したりすることを禁じたものです。
たとえ盗難や従業員の浪費を防ぐなどの理由があったとしても、貯金通帳や印鑑を会社側が預かったり、管理したりしてはいけませんし、労働契約にこれらの規定を盛り込むことは禁止されています。
また、社員旅行の積立などの理由があったとしても、会社側が指定した銀行に口座を作らせて、預金の積立を強制してもいけません。

強制貯金の禁止に該当しないのは、従業員の任意で積立が行われる場合です。
給与から社員旅行などの費用として、給与から毎月一定額が天引きされる旨の労使協定が結ばれている場合は、強制貯金にはなりません。
ただし、用途不明な天引きはトラブルのもとになるため、労使協定を結ぶ際には、従業員にその内容をよく説明する必要があります。

黄犬契約の禁止

憲法第28条と労働組合法第7条第1号に定められる『黄犬契約の禁止』では、労働者が労働組合に加入しないことや、労働組合から脱退することを条件とした労働契約の締結を禁止しています。

会社側が従業員に対して労働組合への不加入や脱退を強制することになり、労働組合の団結権を侵害することになるのが禁止の理由です。
また、労働組合の結成や組合活動を禁止したり、労働組合への加入を妨害したりすることも、同じ不当労働行為にあたります。
労働契約を結ぶ際は、これら4つの禁止事項をはじめ、労使双方の利益・立場を守るためのさまざまな禁止事項があります。

知らず知らずのうちに、労働契約に盛り込んでしまわないよう、注意しましょう。

※本記事の記載内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。