経営者が労働基準監督署で相談できること

労働基準監督署(労基署)は、労働者からの相談や通報を受ける場所というイメージを持つ人も多いでしょう。
しかし、実際は、事業主からの相談も受け付けています。
ただし、労働基準法や労働安全衛生法など、労働法に関連した相談には答えてくれますが、法令外のことについては、事業主が判断しなければならないこともあります。
また、解雇の要件などは民事上の問題になるため、労基署は民事不介入の原則によって、アドバイスすることができません。
経営者が労基署に相談できる範囲について、確認しておきましょう。

相談できるのは労働法関係の内容

労基署は管轄の事業所を監督する厚生労働省の出先機関で、全国に321署あります。
業務については、労災保険の給付や労働者の保護のほか、労働法関係の相談受付などを行っています。

労基署では労働者はもちろん、事業主からの相談も受け付けており、主に労災保険関係や労働安全衛生関係、そして労働条件関係の相談について答えてくれます。

たとえば、労災保険に関する相談では、事業主からは「労災保険料の計算方法を知りたい」や「労災保険の請求手続きについて知りたい」などの相談が寄せられ、労働条件に関する相談では、「法定労働時間を超えた労働をさせたい」「従業員を解雇したい」などの相談が寄せられています。

法定労働時間を超えて従業員に働いてもらう場合は『時間外・休日労働に関する届出(36協定届)』を労基署に提出する必要があるため、会社の設立時に労基署を訪れた人もいるのではないでしょうか。
また、職場で問題を起こすことが多い従業員の処遇を巡り、労基署に相談をする事業主もいるようです。

ただし、注意したいのは、労基署が答えてくれるのは労働基準法に基づく解雇の規定や手続方法に問題がないかどうかだけ、ということです。

労働契約法第16条では『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』と定められています。
合理的な理由かどうかや社会通念上相当かどうかを判断するのは、労基署ではなく、裁判所になります。
そのため、労働基準法に基づいて解雇予告手当を30日分支払ったとしても、解雇理由が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと裁判所に判断されたら、当該解雇は無効になってしまいます。
民事不介入の原則によって、労基署は個々のケースについての判断が許されていません。
したがって、労基署では法令違反にならないようにアドバイスをしてくれることがありますが、その解雇の有効性までは答えることができないのです。

経営をよい方向に向かわせるヒントを得る

では、具体的にどのような相談のときに、労基署へ行くとよいのでしょうか。

労基署は法令に基づく相談であれば、とても親切に教えてくれます。
行政機関なので、午前9時半から午後5時半など、開庁時間に合わせた窓口での対応となりますが、場合によっては電話での相談も受け付けています。
ハラスメント関連は都道府県の労働局、雇用保険関係はハローワークなど、相談の内容によっては別の行政機関を紹介されることもあります。
しかし、ひとまずトラブルが発生したら、管轄の労基署に相談するとよいかもしれません。

労基署は事業者の法令違反を調査したり、取り締まったりする機関でもあるため、相談に及び腰になってしまう事業主もいるでしょう。
しかし、相談をすることで労使間のトラブル解決のヒントにもなりますし、事業者側に法令違反がある場合は指摘してもらうこともできます。
会社を経営していると、知らないうちに労働法に抵触していることも少なくありません。

労基署からの指摘は、是正の好機といえます。
どうして法令違反になってしまったのか、法令違反にならないためにはどこを改善したらよいか、労基署の指摘は会社をよい方向に進めるチャンスでもあるのです。

労働法令違反が常態化していると従業員の不満が鬱積して、離職へとつながる可能性があります。
人手不足の折、経営を揺るがしかねない事態を招く恐れがありますので、離職防止の観点からも労基署への相談は効果があります。

前述した通り、労基署では社内で起きたトラブルについて判断は下せません。
しかし、どのような手順で解決に向かえばよいかという相談には乗ってくれます。
知らぬ間に法令違反になっていたり、問題が大きくなってしまったりする前に、経営者としてするべきことを確認しにいってはいかがでしょうか。