従業員の雇用形態を変更する際のルールと注意点

雇用形態には、正社員のほかに契約社員やパートやアルバイトなどがあり、全ての雇用形態において、企業は労働者と雇用契約を締結しなければいけません。
雇用契約は、使用者と労働者との間で賃金などの労働条件の合意があって成り立つもので、通常はそのなかには雇用形態も記載します。
では、雇用契約を結んでいる期間中に雇用形態を変更することはできるのでしょうか。
今回は、従業員との雇用形態を変更する際のポイントについて、確認していきます。

労使間の合意と合理的な理由が必要

経営不振による人員過剰などを理由に、正社員の一部を非正規社員雇用に切り替えなければならないケースがあります。
この場合は、雇用契約の再締結が必要になります。
雇用契約の内容変更について、労働契約法第8条で『労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる』と記されています。
つまり、労使間の合意があれば労働条件を変更することが可能です。
たとえば、勤務時間や賃金を変更するときは、この第8条に基づいて、労使間の合意を得て、変更を行うことになります。

正社員として締結している雇用契約を契約社員やパートに変更するときも同様に、従業員の合意を得る必要があります。
ただし、正社員から非正規社員(契約社員やパート)への変更は従業員側に不利益が生じることが多いため、単純に合意を得ることができない場合もあります。

労働者側に不利益が生じる『不利益変更』が認められるためには、大前提として『合意』が必要です。
しかし、合意が得られない場合であっても労働条件を変更するに足りる合理的な理由があれば可能となります。

その労働条件の変更が、合理的な理由であるかどうかは、変更の必然性やほかの従業員への対応、同業他社の状況や不利益を被る労働者への緩和措置などから総合的に判断されます。
この合理性の判断は争いごとになった場合、裁判所が行います。
そのため、判断が必要な状況になりそうであれば、裁判例をよく研究しておく必要があります。

一般的に、労働者にとって、正社員から非正規社員になることにメリットはありません。
それでも変更するのであれば、客観的に納得できる理由が必要になるというわけです。
もし、納得できる理由がないまま不利益変更を行ってしまうと、変更した雇用契約が認められず、無効になる可能性もあるので注意しましょう。

変更の経緯を覚書として残すこと

働き方の自由化や個人の事情から、正社員で雇用契約を締結している従業員が、自らパートでの雇用契約を申し出ることもあります。

よくあるケースは、親の介護のために、正社員としての勤務が難しくなり、時間に融通が利きやすいパートでの雇用を望む場合です。
このケースでは、従業員の個人的な事情によるため、労使間の合意に至れば雇用契約の変更が容易に認められます。

雇用契約を変更する場合には、新たにパートタイマーとしての雇用契約を結び直します。
会社側に必要な心構えとしては、たとえ労働者の合意を得ており、合理的な理由があったとしても、雇用契約書以外に変更に至った経緯を『覚書』として交わすのをお勧めします。

もし覚書がないと、後々になって「会社から無理やり変更させられた」「自分はそんなつもりがなかった」と主張された際に、会社側が圧力をかけたという事実がないことを証明できず、変更が認められない可能性もあるからです。
覚書は労使間が合意した事項をまとめた書類なので、労働者側が訴えてきた場合に、合意があったことを示す重要な証拠になります。

まずは現状の雇用形態で対応できる策がないかを考え、やむを得ず従業員の雇用形態を変更しなければならない場合には、従業員とよく話し合い、トラブルにならないように変更を進めていくことが重要です。

※本記事の記載内容は、2021年11月現在の法令・情報等に基づいています。