日本には、公的年金に係る一連の運営業務を行う年金事務所が300カ所以上あり、各地の管轄する法人事業所や個人事業所に対し、定期的に社会保険の調査を行っています。
この調査のことを『総合調査』と呼びます。
総合調査は、企業が正しく社会保険に加入しているのか、あるいは正しく給与額を申告しているのかを調べるためのもので、原則としてすでに加入している事業所であれば、3~4年に一度、新しく社会保険に加入している事業所では1年以内に一度行われます。
総合調査の実施が決まってから焦らないためにも、調査の流れや準備するべきことを確認しておきましょう。
年金事務所による総合調査の流れ
年金事務所による総合調査は、基本的にハガキや封書で実施の連絡が来ますが、なかには電話で連絡する年金事務所もあります。
調査連絡を受けた事業者は、指定された日、または年金事務所と調整のうえで予定が合う日に年金事務所へ出向き、調査を受けることになります。
時期は年金事務所によって異なるため、繁忙期と重なってしまう場合は、日程調整を相談してみましょう。
総合調査は、税務調査と同じく、原則的に拒否することはできません。
もし、調査を拒否したり、妨害したりすると、悪質な場合は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される場合があります。
また、調査員に対して虚偽の報告をした場合にも罰せられるので、注意してください。
年金事務所に出向くのは、経営者のほか、社会保険の業務を担当している担当者や社会保険労務士でも問題ありません。出向くときには、調査に必要な書類を忘れないようにしましょう。
最近では、新型コロナウイルス感染症の拡大の折、必要書類を郵送して調査が行われるケースが増えています。
持参する書類は一般的に、給与額が確認できる賃金台帳、出勤簿やタイムカード、就業規則や給与規定、雇用契約書、労働者名簿、源泉所得税領収証書などです。
ちなみに、なぜ源泉所得税領収証書が必要なのかを説明します。
この書類に銀行の受領印が付されていると、所得税が納付されているのが証明できます。
しかし、年金事務所は税務署ではありませんので、所得税の納付状況を調べるのが目的ではありません。
これは、賃金台帳に載っている人数と源泉所得税領収証書に載っている給与支払者数が一致しているのかを確認するためです。
つまり、間引きをしていないかの確認なのです。
これらの書類は、過去2年間分など期間を指定して持参するように指示があり、基本的に事業所に保管することが義務付けられている重要なものばかりです。
通知が来て慌てることがないように、あらかじめ保管場所を確認しておきましょう。
調査の時間は従業員数や社会保険の加入状況にもよりますが、最短30分程、長いと2時間以上だといわれています。
確認する項目が多ければ、それだけ時間が長引くことになります。
総合調査で確認するのは、社会保険の資格取得時期や取得時の保険料、算定基礎届の記載漏れ、月額変更届の手続き漏れ、傷病手当金や出産手当金の手続き漏れなどです。
このなかで最も調査員が重点的に調べるのが、社会保険の加入漏れです。
正社員は社会保険への加入義務がありますが、非正規であるパートやアルバイトも1週間の勤務時間と1カ月の勤務日数が正社員の3/4以上であれば、社会保険に加入する必要があります。
パートやアルバイトだからといって、社会保険に加入させていないと、社会保険の加入漏れと判断されてしまいます。
ただし、加入条件を満たす労働時間だったとしても、それが「繁忙期で残業が増えている」などの一時的なものであれば、加入対象にはなりません。
その場合は、出勤名簿などを提示し、あくまで一時的な労働時間の増加であることを調査員に伝えましょう。
社会保険の加入漏れが発覚した場合の対処法
加入漏れが発覚すると、最大、時効期間である過去2年間にさかのぼって、社会保険加入の手続きを行い、未加入だった期間の社会保険料を支払うことになります。
たとえば、月給15万円の従業員の場合、社会保険料は従業員と会社負担分を合わせておおよそ4万円~5万円になります。
もし、この従業員を2年間に渡って社会保険に加入させていなかった場合には、100万円~120万円ほどの額になってしまいます。
未加入者が複数いる場合には、さらに支払わなければいけない額は増えるでしょう。
当然、支払いを無視することはできませんし、もし支払わないまま放置していた場合は、財産の差し押さえが執行されることもあります。
何らかの理由で未払いの社会保険料が用意できない場合は、年金事務所に分納の相談をしてみましょう。
支払う意思があることだけでも伝えることで、財産の差し押さえという最悪のケースは免れることができます。
総合調査は、加入条件を満たす従業員をきちんと社会保険に加入させ、正しく給与額を申告していればほぼ問題なく終わる調査です。
調査に備えるためにも、未加入者の洗い出しと労働時間の確認を行い、必要であれば早急に加入手続きを行っておきましょう。
※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。