銀行融資を左右する稟議書
突き詰めて言うと、銀行の融資は銀行内での「稟議」が通るか否かで決まります。しかし融資の運命を左右するそんな「稟議書」について、詳細を知っている社長はほとんどいません。
稟議書の詳細は各銀行によってまちまちですが、大きなポイントは変わりません。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の諺通り、銀行融資を取り付けたいならまずは銀行について知っておくことが重要。
ここでは、銀行で融資を決める際に使われる稟議書について理解しましょう。
目次
- 1 銀行融資を左右する稟議書
- 2 稟議書とは
- 2-1 稟議書の目的
- 2-2 融資の稟議書
- 3 稟議書がたどる道
- 3-1 銀行の支店の組織
- 3-2 比較的小さな案件がたどる道
- 3-3 比較的大きな案件がたどる道
- 4 稟議書の内容
- 4-1 企業について
- 4-2 業績について
- 4-3 案件について
- 4-4 金利について
- 4-5 返済の安全性について
- 4-6 倒産した時いくら戻ってくるか
- 4-7 担当者の意見
- 5 良い稟議書を書いてもらうために
- 5-1 担当者の目的を知る
- 5-2 融資係の目的を知る
- 5-3 稟議書を書くにも「うまいへた」がある?
- 5-4 情報提供でサポートする
- 5-5 定期的に連絡を続ける
- 6 今回のまとめ
稟議書とは?
稟議書の目的
言うまでもありませんが稟議書とは「稟議のために作られた書類」のことです。多くの会社でも一般的に利用されているので、よくご存知の方も多いかと思います。
そもそも稟議書とは、組織内での日常的な決定を行う際に、関係者から承認をとるために作られる文書です。承認をとるためにいちいち会議を招集することがなくなるため、スムーズに意思決定できることを目的として使用されています。
融資の稟議書
銀行の担当者が、あなたの会社についての説明や、融資条件などについて書いたものが融資に使用される稟議書です。銀行で融資のために使われる稟議書のことは、一般的な稟議書と区別するために『貸出稟議書』などと呼ばれています。
もちろん目的は、「融資を通すこと」であり、その点は銀行の担当者も経営者も同じ想いを持つことになります。
稟議書がたどる道
銀行の融資は、担当者1人の裁量で決まるわけではありません。多くの人物が関与し、決済していくことでようやく決まります。
そして各支店の支店長が、最終的に稟議書に印鑑をついてくれないと決まりません。まずは、稟議書が誰に回るのかを確認しておきましょう。
銀行の支店の組織
ところで銀行の組織って一体どうなっているのでしょうか?普段から付き合いのある組織ですが、意外に知らない方も多いものです。
銀行や支店によって多少の違いはあるものの、以下が一般的な組織の構成です。
- 支店長
支店のマネジメントが主な仕事内容です。支店の業務に対する全ての責任を負っていますので、ときにはクレーム対応なども行います。
支店長になるためには、若い頃からバリバリ働き、一定以上の成績を残してきたはず。その意味でも支店の業績に深くコミットしている方が多いようです。しかし近年では、行員たちの「働きやすい環境を整える」ことを重視している支店長も増えています。
銀行融資に関して大きな権限を持っているのが、この支店長。金額が比較的少額の案件では、支店長が最終決済権者です。
- 副支店長
支店長の次に偉いのが副支店長です。その名の通り、支店長のサポートを主に行っています。間違える方が多いようですが、次に解説する次長より上です。
「支店長代理」という紛らわしい職もありますが、副支店長の方が役職が上なので、知っておくと良いでしょう。
- 次長
銀行の組織の中で、銀行員以外から一番理解されづらいのが「次長」でしょう。一般的な会社で言うと、「部長」と「課長」の間くらいの役職だと思えば、イメージしやすいのではないでしょうか。
次長の基本的な仕事は支店の統括ですが、最終決済権者として支店長が上にいます。しかも各課にはそれぞれ課長がいます。なんともふわっとした立場です。一体この微妙な地位がなぜ必要なのでしょうか?
それは「行内の問題解決」という重要な役割を担っているからです。支店長はどちらかと言えば本部とのやり取りや重要なお客様とのやり取りなど、支店の外に向けた仕事に忙殺されています。
すると行内のゴタゴタや不祥事について目が行き届かなくなることもあるのです。そういう時に次長が裏で暗躍(?)しているわけです。日々大きなお金を扱う銀行にとっては、なくてはならない存在といえるでしょう。
- 課長
各課を取り仕切る役職が課長ですが、支店の規模によっては置かない場合もあるようです。大きな規模の支店となると、さらに下の役職として、「係長」や「主任」が選任されることもあります。
比較的小さな案件がたどる道
- 営業担当
- 営業担当の上司
- 融資係
- 融資係長
- 次長
- 支店長
このような経路をたどることが一般的です。
比較的大きな案件がたどる道
支店長までは、比較的小さな案件がたどる道と同じですが、大きな案件はそこから本部の「審査部」へ回され、そこからさらに審査が進む場合もあります。
稟議書の内容
企業について
融資を申し込んだ企業の情報が書かれます。住所や事業内容、製品についての説明などです。
業績と財務内容について
主に過去三期における決算書と、直近の試算表等にもとづいて説明が書かれます。
融資金額と条件について
融資金額、返済期間、金利、担保、保証人などについて書かれます。
資金使途と返済財源について
資金使途は、大きくは「設備資金」か「運転資金」のどちらかです。また返済の財源も、資金使途に応じてしっかりとした説明が必要です。
返済の安全性について
年間の返済金額が、キャッシュフロー以下になっているかが書かれます。ちなみにキャッシュフローは
「営業利益 + 減価償却費」
で計算することが一般的です。
担当者の意見
会社の担当者が、今回の融資案件についてのコメントを書きます。
良い稟議書を書いてもらうために
担当者の目的を知る
基本的に、銀行の担当者はあなたの会社に融資をしたいと考えています。営業担当者にもノルマが課せられていることも多く、新規の貸付案件は業績アップにつながります。つまり、融資を実行するほどその銀行員の評価は上がるのです。たまに、申し訳なさそうに融資を申し込む方を見かけますが、融資を成功させたいという同じ目的を共有しているパートナーだということを理解しておきましょう。
融資係の目的を知る
担当者が融資を通したいからといってのべつ幕なしに融資していたら、貸し倒れが頻発して銀行の経営は立ち行かなくなります。それを防ぐことが、融資係の目的です。つまるところ、貸し倒れを出さないことが融資係の評価につながります。
稟議書を書くにも「うまいへた」がある?
実は銀行員の中にも、稟議書を書くのが得意な人と、苦手な人は存在します。それは一般の企業の場合と同じです。自社の担当者が前者ならいいのですが、もしそうでなければ、融資に不利になりかねません。
情報提供でサポートする
融資の担当者が、内容の濃い『貸出稟議書』を作れるように協力しましょう。そのためには、言葉ではなくて「文書」にして渡すことがコツです。
例えば、以下のとおりです。
- 商品ごとや各取引先ごとに表やグラフにして「見える化」した資料
- 会社の事業内容を分かりやすく伝える資料
- 今後の収益の予測と根拠
- 新規開拓営業の施策を数字とともに説明した資料
- 経費削減の施策を数字とともに説明した資料
- その他のアピール資料
これらの資料は、必ず提出をしなければならないという類のものではありません。しかしあるのと無いのとでは大違いです。無駄に資料を渡せばいいというわけではありませんが、稟議に役立ちそうな資料はしっかり揃えて、早めに渡すようにすると良いでしょう。
定期的に連絡をする
銀行員も人間です。過去に何度もやり取りを続けてきた企業と、年に1度程度しか話をしない企業では情報量もモチベーションも大きく違ってきます。
また、どうせ銀行を訪ねるなら『試算表』や『資金繰り表』も作っていって説明をしておくとさらに良いでしょう。結局は「人間 対 人間」、コミュニケーションが大事だということを理解してください。
今回のまとめ
融資の可否を左右する重要な書類が「稟議書」。
稟議書は、比較的小さな案件の場合は
「営業担当 →営業担当の上司 →融資係 →融資係長 →次長 →支店長」
と回される。
比較的大きな案件になると、そこからさらに本部の審査部で審査が続けられる。
稟議書には
「企業、業績、案件、金利、返済の安全性、倒産した時にいくら戻ってくるか、担当者の意見」
などが書かれている。
稟議を作るのも「人」、役立ちそうな資料を作ったり、定期的に顔を合わせて話をしておくことも重要である。